人間万歳

こんなことってあるでしょうか。
2019年8月、夏の暑い日。四国八十八ヶ所、五十一番札所「石手寺」での出来事です。

白装束姿の男性が、
「一人の日本人の消息を探しています。」
「はい。」
「昔、ナイル河をカヌーでイタリア人と旅した人をご存じないでしょうか?」
「えぇ……」
「二人のナイルの旅をしたときの写真を預かっています。」
白装束の男が写真を広げて見せる。
「ここに写っているのは、1964年のわたしです。」
「……」

まるで、ミュージカルのはじまりのシーンのようです。
これは、タダこと長坂是之(ただゆき)さんの本当にあった出来事です。この出来事をきっかけに50年前に出版した、2年間で40カ国をヒッチハイクで旅した記録の本に加筆・修正を加えて再販しました。

カバン一つ背負って道路に立ち、道ゆく車を止めてタダ(無料)で乗せてもらい旅をすることをヒッチハイクといい、その旅人のことをハイカーという。日本で有り得ない無いかもしれません。タダの本の中から「ハイカーが旅する目的は、ほとんどあってないようなケースが多い。何故、暑い最中、道に立って車を待つのだ。ただ単に目的地に着くまでのヒッチが、目的である場合が多い。」

60年前のヨーロッパ、アフリカ、アジアの旅でタダは初めて会う異国の人たちから、日本では経験できない、現実とは思えない親切を受けます。フィンランドで皿洗いの手伝いをしたら、皿いっぱいのソーセージを食べさせてくればおばあさん。訪れる度に好きになったパリ。村人たちが、絶えず気を使っていつのが、自然に伝わって来たナイルの人たち。タイの女性は小柄で美しいこと。

タダの旅の様子を知り、どこの誰かも、ましてや何人かもわからない、しかも、風呂も入っていない汚い服の若者が道に立っていたら、わたしはその人を歓迎して車に乗せることができるだろうか。ましてや、食事を振る舞うことができるだろうか。

それにしても、1965年にナイル河で撮った写真を、2019年のこの時代に、四国のお寺で見せられるとは夢にも思わなかったに違いありません。

正に「旅は情け」、そして「人間万歳」。

今日も、「M9notes」に来てくれてありがとうございます。
お遍路さんの旅でこのようなことが起こった。これは空海さんの仕業ではないだろうか。この世の中の出来事は”一切は空”という声が聞こえています。

中島正雄